ゲートウッドケープがもっと好きになった話


 瓦奇岳店舗には、日々様々なスタイルの面白いハイカーが訪れます。このテキストを書いてくれたアベちゃんもその中の一人。幸いにも暇な時間の多い瓦奇岳(まずいだろそれはw) お客さんと話し込む時間も多くなりがちで、山のことだったり、ギアのことだったり、時に人生の事だったり、いろいろ根掘り葉掘り聞いたり聞かれたりしてコミュニケーションをさせていただいております。

 そんなある日、黒縁メガネをかけたイケメン風の男が店に寄ってくれた。フラッと帰省の寄り道で来てくれたらしい。そんな彼の話を聞いていたら、なんでもMYOGでザックを作ったので僕に見てほしいと言ってきた。シワシワの紙袋から彼が取り出したザックは、その男が人生初のミシンを買い、ゼロから自分で作ったザックだった。それはど素人が最初に作ったとは思えない、スタイリッシュで軽く、ぜひ山で試してみたいと思わせるギアだった。縫製の精度こそまだまだと本人も言っていたが、なにより、田舎の栃木市(別にDISってないですよ、愛です、愛w 良い山、沢山あるしね!)の嘉右衛門町の小さな店に、わざわざ大阪から帰省の際に立ち寄ってくれただけでも僕は嬉しかったし、話を聞いたら同い歳じゃないか。しかも世界中を旅したり、山口県から青森県までのオリジナルのトレイルルートを開拓しているとか(なにそれ・・笑)

 後日判明したのだが、偶然にも僕がしょっちゅう一緒に山に登る友人、麦ちゃん(metal hike)の昔のバンド仲間だった。しかも、2人は最近山に登ってる事をお互いに伝えておらず、仲悪いわけじゃないんだろうが、特に連絡をとっていなかったらしい。そんな彼らが僕以上に互いの近況や同じ山の趣味に驚いていたのが面白かった。友達の友達ならもう仲良くならない理由もないし、思いつきでウチのWEBで何かテキストを書いてくれないか頼んでみた。彼がどんな文章を書いてくるのか全く想像もつかなかったが、ノリで依頼したのにちゃんと数日後、速攻で書き上げて、ちょっと毒っ気のある、ゆるっとしたナイスなイラストを添えてLINEで送ってきてくれたのだった

文とイラスト: アベテツヤ (pedestri)
構成: shiro kojima (kawarakidake)




いきなりだけど、ゲートウッドケープはシックスムーンデザインズのポンチョにもなるシェルターで、風が強いと不安なくらいしなるけど破れたりしたことは今のところない。(大抵アイマスクと耳栓して寝ちゃうからペグが抜けて飛ばされてても気づかない)

もっと軽量なタープもいいかなって思ったことはあるけど、これ以上贅沢なものはもういらない。それくらい完成された製品だといつも思っている

昨年9月下旬のある日、僕の作るバックパックのテストのため、北アルプスに1泊2日の旅に行くことにした

翌々日には東京で親友の結婚式があって、またその前日には親しい友人らとの飲み会もあったため、明日の昼前には上高地から松本駅行きのバスに乗りたいと思っていた


新穂高登山口から、槍平小屋を超えて千丈沢乗越までいき、そのまま槍ヶ岳山荘を過ぎて、ババ平くらいまで降りて一泊して、翌日上高地からバスに乗れれば間に合う算段

夜行バスで大阪の梅田から乗り込む。関西方面からは車じゃなければこの行き方が割とメジャーなんではなかろうか。他にもあるのかな

いつもは爆睡なのに、めずらしくなかなか寝られない。Apple Musicで寝れそうな音楽を探しまくってたらどんどん時間が過ぎちゃって、そのままほぼ無睡眠で新穂高に到着。最初から心が折れてる状態で無事スタート

しばらくなだらかな長い林道を登っていく。空は怪しい雲が出ているが雨は今のところ降ってこなそう

新穂高の気温は大体20度くらい。上はパタゴニアのキャプリーンにメリノウールのロングスリーブ、下はテルボンヌジョガーズ。正直これでもけっこう暑かったけど、腕をまくりながら登っていく

やっぱり背面にはスペースがあったほうが日本の山は快適に登れるなーとか、この時は自作パックに対してセルフフィードバックをする余裕もみせてた

順調に登っていき、9時ごろには槍平小屋に到着。軽い朝食を取りつつ引き続き登っていく・・・

すると、小屋から出て少し歩いたところで小雨が降ってきたので、レインウェアを着るためにバックパックを開けた

ところが、

あれ

あれぇ?

無ぇ!?



あれ、入れた気がしたんだけどなー。いくら荷物をひっくり返しても見つからねぇ! でもダウンは上下も寝袋もあるからいっか! ってレインウェアなきゃ着れねぇじゃねーか!

焦りながら若干頭が真っ白になっていると、ふとシェルターに持ってきたゲートウッドケープが控えめにアピールしていた

僕はそれのジッパーをピーっと開けて袖を通す、さらさらして目が細く、ツルツルした面が雨を弾いてくれる。これならいけるぞと強めに思い(こませ)歩き出してみる

その後予想以上に雨が強くなっていったが、それ以上にゲートウッドがどんどん雨を防いでくれていた



さらに余裕ぶっこいて、千丈沢分岐では石に寄りかかってケープの中にバックパックをしまって、体育座りで10分ほど仮眠をとったりした。誰も通らなかったと思うけど、誰かが見たらなんだと思うんだろうか? 緑色のゴミ袋が突然置いてあるって思うんだろうか。こんな使い方もできるんだ(できないよ)

たった10分の仮眠でも信じられないくらい回復した! よし元気1.5倍(微増)、ここからは千丈沢乗越までの急登! 手を使わなければ登れない急登にはポンチョは不向きだけど、上手く体に巻きつけて登っていく

ここでなぜかレインウェア忘れたくせに入ってたウィンドシェルを着る。(この瞬間、軽量ウィンドシェルを常にバックパックに入れておくことを我が家の家訓になりました)



尾根に出てしばらくすると、ゲートウッドの快進撃も強風でそれどころではなくなってきた。マリリンモンロー(だっけ?)ばりに巻き上げられて、一瞬でポンチョの中はびしょびしょになっていった

濡れと風が体温を奪っていく人体実験(被験者自分)、そんなタイミングで雷鳥の家族が僕の前を歩いてきた。トレッキングポールで無常においはらう。今の私に鳥ごとき愛でてる心の余裕はない(ごめんなさい天然記念物)昔おばぁちゃんが優しい子ねーって褒めてくれたなー。おばぁちゃんこれが本当の僕です

普段でさえきつい上りを登っていく。ちょっと槍ヶ岳山荘で休んだら頑張って降りようって思ってたけど、もう歩き出して10分くらいでそんな気持ちは微塵も無くなった

今日は槍ヶ岳山荘に泊まる!
ダメって言われても泊まる!

宿泊費もったいないけどもう無理! てかお金財布に入ってるかなー 入ってなかったらどうしようママー(涙)

絶望に駆られながら、もはやこの視界よりも遥かに頼れるYAMAPを頼りに登っていく

それにしても、もう小屋に着いててもいいのに全然見えない。って思ってたら突然目の前に壁が現れた。うお!あぶね! 槍ヶ岳山荘の壁だった。こんなに近づいてたのに見えないなんてどんだけ視界悪かったのか



山荘に駆け込む。安心感で涙とおしっこが出た(ちょっとだけよ)。シーズンを少し外れているとはいえ、北アルプス屈指の人気の小屋。やっぱり人が多い

同じ境遇なのか食堂のストーブと合体している人がいる。うらやましい! それぼくもやりたい! その後恐れていたお金の確認。震え過ぎてジッパーも掴めない。財布開けるのに1分くらいかかったけど、

「あったーーー!いちまんえんだーー!」

一刻も早く布団にインしたくてカウンターのスタッフさんに宿泊したいと伝えた

僕 「じゅぐあぐえ」
スタッフ え?

あれ?

もう一度、

僕 「じゅぐあぐえおでがじばう」
スタッフ 「はい、宿泊ですね、ではこちらの用紙にご記入ください」
僕 「ばい」

あぶねー。なんとかティモンディ高岸ばりの滑舌だったが、第一関門クリア(できてない)。よく聞き取れたなあの人、低体温症慣れしてる人でよかった!

だけどすぐに第二関門。字が書けない・・・。両手で挟まないとペンがもてない・・・

とにかくどうにかして手を暖めないとと思い、
1.  脇に挟んでみる ⇨ 脇が冷た過ぎて無理
2.  手を擦り合わせてみる ⇨ ただ痛いだけ
ということで、先程のストーブと一体化してる人の隙間にお邪魔することに

それにしても、どれだけストーブに手を近づけても暖かさが感じない。ふつう
冷たい ⇨ 暖かい ⇨ あちっ! なのに、
冷たい ⇨ 痛っ! って
間がないのだ

ふと目の前のこの人も多分今の僕みたいだったんだろうな。僕に替わってくれないかな、と彼を見る。彼は視線をストーブの火の中に目を落とす。うん、選手交代する気はないようだ。あきらめよう

手に刺激を与えてるうちに親指の付け根でペンを挟めるようになったので、もはや読めないであろう文字で住所を書く

ごめんもう無理なの。早く布団に入れさせておくれ



料金を出し、説明をうける。もはや返事しても伝わらないから首の動きだけで伝える。ありがとうスタッフさん。読めないけどまあいいかって言う空気は感じました

即座に服を脱ぎダウンを直接着て寝袋に入って布団をかける。そのまま気がついたら寝落ちしてた。ふと目を覚まして外を見ると、すでに夕暮れ時。本当ならすごくキレイな景色のはずなのに、真っ白でなんも見えやしねー。こりゃ雨具あっても無理だったな

夕飯を食べて外はすでに0度。槍ヶ岳小屋の乾燥室で装備を乾かしに行く。毎度この場所にこんな施設があることに驚く。もっと金とっていいよマジで



翌朝は前日の荒天が嘘かと思うほどの快晴。穂高連峰や常念がきれいに見える。いまだに全く登る興味がわかない、槍の穂先を横目に見つつひとり下山していく

ほんとにゲートウッドがなかったらやばかったし感謝したけど、それと同時にあの瞬間これならいけるって思わせたゲートウッドをちょっと恨みつつ、レインウェアとしての利用の比率が高まった経験でした。サラサラで出し入れも楽だしね。風には弱いけどさ

ちなみに僕のバックパックは最高の背負い心地でした

PROFILE: アベテツヤ(pedestri)
栃木市生まれ大阪市在住。幼少期よりクラシック音楽漬けのわりとインドアな青春を送る。20歳頃に行ったアメリカへの留学をきっかけに旅に狂いはじめ、海外45ヵ国を旅するが、コロナ禍による国境閉鎖によりその刺激を国内のトレイルに向け歩き始め、目下、山口県から青森県までのオリジナルのトレイルルートを開拓中

現在はミッツマングローブ等の国内アーティストのアレンジや作曲等をしつつ、ランニング向けの音楽Cadence 180(ケイデンスワンエイティ)をストリーミングでリリース中(マカオ、ベルギー、オーストリア、韓国などのAppleMusicフィットネスランキングでトップ10入り)また、より遠くまで歩くために考えた自作バックパックブランドPedestri(ペデストリ)を立ち上げている最中