SEGMENT制作の余談


たまにプリントがズレたり剥がれたりしているZine
text by shiro kojima(kawarakidake)

 Zineといえば中学生時代に東武線に乗り、小遣いを握りしめ原宿のスケートショップ、ホークサーフボードで買った"NATION"を思い出す(まだ実家の押し入れのどこかにあるかな...)。USの名門スケートボード誌、"THRASHER"をパロったロゴが印象的で、全てモノクロ印刷だった。表紙はハードコアバンドのライヴ中の、激しく生々しいステージ上の喧嘩写真だったのを今でも覚えている。大都会栃木の一般書店やコンビニ流通の雑誌とは、全く違うテキストのノリとレイアウト。ネットもSNSもクソも無い当時、かなり貴重な日本語で書かれた、リアルでハードコアなスケートボード情報誌だった。その頃Zineなんてオシャレに呼んでいる人は多分いなかった気がするけど、運動神経が鈍く、スケボーも部活の野球も全く上達できない自分(野球はライトで補欠、スケボー歴はそれなりに長いが永遠にヒールフリップがメイク出来なく諦めた)。田舎育ち(あ、大都会栃木だったw)でヤンキーにもなれず、ただひっそりとやさぐれて何の特技も無い僕にとって、この謎のモノクロ冊子"NATION"に何かの"魂"のようなものが宿っている気がして、学校から帰れば穴が開くほどそれを眺めていた。高校を卒業した僕は都内のデザイン専門学校を出て、運良く広告制作のデザイン会社に拾われて就職、その後転職してストリート雑誌やスケートボードの専門誌を発行する出版社の社内デザイナーになった。


THRASHERをパロったロゴが特徴のスケートボード雑誌"NATION"の表紙イメージ。実家のどこかにまだあるかな

 ダラダラと関係のない話だ。子供の頃は親父に嫌々辺鄙な山に連れて行かされて、歳を重ねてから山歩きの面白さに気づいた自分。後発でアウトドア業界の"外"にいた人間が、偉そうにZineを出すなんてとも思う。でも時代は変化し、表現者ですらネットやSNSに自分のアイデアや時間が支配され、様々なコンプラや諦めに近い自粛ムードと同調圧力が気になる面倒で生きづらい現代。その反面に、数こそ少ないが"個"のアイデンティティと、そこに共鳴してくれる人を遠く離れた場所からでも見つけやすくなり(繋がりやすくなった)、上手くいけば小さなビジネスにしたり、サラリーマンでも副業を世の中が"個性"として認められ、ChatGPTを使えば模範解答が書かれた、それっぽいプレゼン資料を一瞬で生成することができる時代になった。そんな良くも悪くも便利な今だからこそ、わざわざ紙に印刷して、コピペ不可能、Googleのロボット検索エンジンにも相手にされない、ニッチで偏った局所的なコンテンツで人間っぽい、たまにプリントがズレたり剥がれたりしているZineを作ってみたいと思った。


SEGMENT、用紙は蛍光グリーンの紙にスミ1色刷り。地味に面付けでかなり手こずったのと、レーザープリンターの両面印刷による紙詰まりで相当な紙を失った。制作になんだかんだで2週間くらいかかってしまいかなり疲弊した。次回はあるのだろうか.....。

KAWARAKIDAKE "SEGMENT" 初号
https://kawarakidake.com/products/segment-01